アカデミー賞R5部門に輝いた『アーティスト』の監督が“どうしても”描きたかった激しく心揺さぶるテーマに挑んだ衝撃の感動作!

88年『さよなら子供たち』98年『ライフ・イズ・ビューティフル』11年『サラの鍵』子供たちはいつだって、絶望の中でも懸命に生きている―。

 白黒&サイレントで甘く切ない愛の物語を描いた『アーティスト』で絶賛され、アカデミー賞Rを始めとする数多くの賞に輝いたミシェル・アザナヴィシウス監督。彼が長年、“どうしても描きたい”と願い続けた物語が、ようやく完成した。今も世界のどこかで起きている戦争に、どんなに踏みつぶされても懸命に生き抜く人々の現実を、力強いヒューマンドラマとして世に訴えた作品だ。2014年にカンヌとトロントの国際映画祭に正式出品され、アザナヴィシウスは再び鳴りやまない大喝采に包まれた。
 原案となったのは、アカデミー賞R4部門にノミネートされ、原案賞を受賞したフレッド・ジンネマン監督の『山河遥かなり』。ナチスによってユダヤ人収容所に送られ、母と生き別れになった少年を、アメリカ兵が助けるという物語だ。この名作の登場人物の関係性と、人間不信に陥った少年の心理にインスパイアされたアザナヴィシウスが、現代の戦争のひとつの象徴として舞台に選んだのは、ロシアに侵攻された1999年のチェチェン。フォーカスされるのは、両親を目の前で殺されて声を失った少年と、自分の無力さに絶望するEU職員、さらにロシア軍に強制入隊させられ、殺人兵器と化していくごく普通の青年だ。
オールグルジアロケと手持ちカメラによる、臨場感に満ちた圧倒的な映像が突き付けるのは、泣きながら、なりふり構わず行動する人間の姿。そこから溢れ出る、立場の異なる彼らの“それでも生きたい”という願いを描き切った、衝撃の感動作が誕生した。

両親と声を失くした9歳の少年、戦争を止めることなどできない35歳の無力なEU職員キャロル。戦いの闇の中、2人の運命が交錯する─

 1999年、チェチェンに暮らす9歳のハジは、両親を銃殺されたショックで声を失ってしまう。姉も殺されたと思い、まだ赤ん坊の弟を見知らぬ人の家の前に捨て、一人放浪するハジ。彼のような子供さえも、ロシア軍は容赦なく攻撃していた。ロシア軍から逃げ、街へたどり着いたハジは、フランスから調査に来たEU職員のキャロルに拾われる。自分の手では何も世界を変えられないと知ったキャロルは、せめて目の前の小さな命を守りたいと願い始める。
 ハジがどうしても伝えたかったこととは? 生き別れた姉弟と再び会うことができるのか──?

ハジとその姉に扮するのは、オーディションで選ばれた、撮影当時10歳と17歳のチェチェンの素人の子供たち。自然な感情をそのまま差し出す彼らの演技は、涙なくしては見られない。さらにロシア兵役に抜擢されたのは、ロシアの新人俳優マキシム・エメリヤノフ。穏やかな青年が殺人マシーンに変貌していく様を強い説得力で演じ切り、各国のメディアから熱い称賛が寄せられた。
ハジを保護するキャロルには、『アーティスト』でアカデミー賞Rにノミネートされたベレニス・ベジョ。仕事を人生の第一優先と考え、家庭も持たず離れて暮らす母親のことも煩わしく感じるキャロル。社会的に大きな目標ばかり追いかけていた彼女が、ハジを助けることで身近な幸せの大切さを思い出し、自分自身が救われていく姿は、大人の女性たちの深い共感を呼ぶだろう。その他、『キッズ・オールライト』などでアカデミー賞Rに4度ノミネートされた名女優アネット・ベニングが、迷える者たちの心をつなぐ重要な役を演じている。
闇の中でもがきながら、光を探す彼らに、私たちは胸を打たれ、そして気付く。光は天から射すのではなく、彼らの命のきらめきにこそあることに──。